谷(正人)ゼミについて

 

求めているゼミ生  

 

その1.現場で何かを体験(しようと)している人

私の専門は民族音楽学です。具体的には中東イランの音楽が専門です。大学1年生の時にイランの伝統楽器サントゥールの授業に興味を持ったのがきっかけでした。弾き方や音楽理論などわからないことが色々ありましたが、それらを体系的に教えてくれる人は周りにはいませんでしたし、図書館にも資料はありませんでした。そこで私は必然的に、イランに一か月間サントゥールを習いに行くことにしたのです。2回生の終わりのことでした。

殆ど言葉も出来ないままスタートした現地での滞在は、本場でしか学べないものに沢山出会い大きな成果がありました。と同時に、教え方の違いや、ホームステイ先での慣れない食事や日本には無い習慣など、「戸惑うこと」「わからないこと」も多くありました。しかしその過程で得た様々な「カルチャーショック」「驚き」は、20年近く経った今でも私の研究の強い原動力となっています。

このように言うと、皆さんにとっての「現場」も、どこか「遠い異国」でなければいけないような印象を持つかもしれませんが、実際に何かを体験できる「現場」は私たちの身近な所に幾らでもあります。本ゼミでは、自分で何かを具体的に現場で日々経験している、あるいは今後そのような場に飛び込むつもりであるというひとを歓迎します。「現場は自ら見出すもの」という考えから具体的な現場の斡旋(強制?)をすることは基本的にありませんが、特に「音楽を実践するなかから理解しよう」としている人を歓迎します。

 

その2.現場で経験した「謎」を解き明かしたいと思っている人

そのように何かを真剣に経験すると、かならずそこには解き明かしたい「謎」(と場合によってはその答えに対する予感めいたもの)があることに気付くでしょう。そこで必要となるのが先人たちの研究です。本ゼミでは何かを体験・実践することを重要視しつつも、座学として他者の研究成果を十分に探索し、在学中に複数の「お気に入りの本や論文、著者」を見つけて欲しい、と思っています。

自分が感じた「謎」は実は殆どの場合、過去の誰かも同じように感じた「謎」です。しかしそれは、あなたのやろうとしていることが他人のコピーである、という意味ではありません。仮に結論が似たようなものでも,自らフィールドに行き何かを経験している限り,どこか違います。そこにたとえ1割でも新しい発見があれば,自分のオリジナルな研究と言うことができるのです。もちろん自分の経験のうち何がオリジナルなのかについては,他人の研究を参照しないとわかりません。つまり自分の独自性を探る営みは,他人の研究成果に対するリスペクトによって成り立っているのです。自分自身の経験に他者とも共通する部分があることを確認しながら,やはり細部には自分ならでは視点があることを浮き彫りにしてゆく――この部分こそが、卒論執筆の醍醐味であり、私がゼミ活動を通して具体的に皆さんをお手伝いすることができる点なのです。

 

Q.最近の研究テーマ

 これまで研究テーマは主として「イラン音楽における即興演奏」です。演奏家コミュニティという環境のなかで、個々人は即興の技能をどのように発達させているのか。集団が持つ多層的秩序の網の目という環境の中で、一個人がどのように他者との相互行為によって、即興演奏というコミュニケーション形態を発達させているのかを考えています。具体的には、

 

1.規範(ルール)の解明

2.自由さ(の内実)の解明 →(言語リズム、身体性、オーラリティ)

3.周囲の環境(演者間の相互行為)との関わりからの解明

 

などの切り口から考えています。また、身体の使い方を含めたセルフコントロール法のひとつであるアレクサンダーテクニークについても数年前から興味をもち実践面から探求しています。

 

www.h.kobe-u.ac.jp

 

 

私との相性など、選択にあたって迷うことがあるでしょうから、ぜひ気軽に相談に来てください。研究室はC棟の206です。事前にメールで日程の相談を。tanimasato@people.kobe-u.ac.jp

 

詳しい自己紹介はこちら→

www.kcua.ac.jp

 

 

◆「音楽学専攻生のみなさんへ」

音楽学専攻生のみなさんへ」 大阪音楽大学音楽学専攻情報誌「音楽畑」2006年春号<講師紹介>より

 今年から「音楽学講義B」「短大音楽史(世界と日本の音楽を考える)」を担当しています谷正人です。自己紹介については、音楽学専攻ウェブページの「卒業生の声」コーナーにも寄稿させて頂いたので割愛し、この場では私から音楽学専攻生の皆さんへ、どうしても伝えておきたいメッセージを書き記すことにします。

 それは、在学中に少なくともひとつは「お気に入りの論文」を見つけて欲しい、ということです。例えば演奏専攻の学生には、自分の演奏を磨くうえで参照点となるような「お気に入りのCD(録音)」が当然あるはずです。ならば同様に音楽学専攻の学生にも、自らの専門である「書くこと」に関してバイブルとなるような「お気に入りの論文」があっても良いはずです。

 もちろん近年では、音楽の現場に通用する人材の育成など、音楽学専攻に求められているものは多様化しています。しかし個人的には、音楽学専攻とはやはり最終的には「書くこと」を磨き、またその成果を誇るべきところではないかと考えています。

 自分が直感的に感じ得たことについて、それを説得的に文章で表現するのは確かに難しいものです。しかし、音楽学のみならず広く学問全体に目を向ければ、その「うまく表現できない何か」が絶妙に表現されている、「これこそ自分が言いたかったことだ!」と思えるような記述はいくらでもあり、それに説得されている自分に気付いたりします。

 つまり「お気に入り」となり得る論文とは、そのような言葉にしにくい何かを言語化するうえでのヒント・工夫が随所にみられるような論文のことなのであって、それは決して、ショパンノクターンを研究しようとする人が、彼のノクターンについての詳細な「情報」を得るためだけに論文を読んでいては出会えないものなのです。

  乱暴な言い方かもしれませんが、そのような論文に出会い、門外漢であるにもかかわらず自らがそうした記述に説得されるという経験さえ持てば、論文を書くうえで必要なことは芋づる式に付随してくるのではないかという気さえしています。ぜひ、自分の研究対象とは別の分野の書きものにもひろく目を向けて、そのような記述に出会ってみて下さい。